恋は麻薬のように…
Reward, Motivation, and Emotion Systems Associated With Early-Stage Intense Romantic Love.
J Neurophysiol 94: 327–337, 2005; doi:10.1152/jn.00838.2004.
(いったいぜんたい、なぜこの論文を取り寄せたのかも、今となってはすっかり忘れてしまいました。)
「恋愛」は古今東西、万国共通に人の心を狂わせます。
恋に落ちた人は、奇妙な(麻薬のような)多幸感につつまれ、気持ちは恋する相手のことばかりに集中し、強迫的にそのことばかり考え続け、一緒になることを渇望し、エネルギーが過剰になり、夜も眠れず、食欲もなくなり…、とまるでコカイン中毒のようになると言います。
さらに、恋愛にはどこかギャンブル的なところもあります。もしかしたら大きなリスクがあるかもしれないのに、何かに突き動かされてしまうのです。実際、それで身を滅ぼしてしまう人だっているかもしれません。
…ということは、コカイン中毒やギャンブルと同じ脳の回路(ドーパミンによる報酬回路)が過剰に使われている? と思って実際に「恋愛の初期」にある若い男女を集めて、脳の活動をfMRIで撮ってみたのが、この研究。
結果は、予想通りでした。
麻薬依存やギャンブル依存などで、その回路が過剰に働いていることが知られているドーパミン系による報酬回路がある腹側被蓋野(VTA=ventral tegmental area)の活動が過剰に高まっていたのです。
どうりで恋愛は人をおかしくさせるわけです。
とはいえ、この報酬回路による動機づけがあるおかげで、私たちは(私たち以外の哺乳類もそうなのですが)「異性だったら誰でもいい(性欲オンリー)」ではなく、特定の誰かに気持ちが集中することによって、進化論的な意味のある「配偶者選択 mate choice」をする能力を得てきたわけです。
人をおかしくする「恋愛」は、進化が与えた「知恵」でもあったわけで、なんだか不思議です。
遺伝子的には日本人と韓国人はほとんど同じだけど、日本人は少し縄文人の血が入っている。
The history of human populations in the Japanese Archipelago inferred from genome-wide SNP data with a special reference to the Ainu and the Ryukyuan populations.
Journal of Human Genetics (2012) 57, 787–795; doi:10.1038/jhg.2012.114; published online 8 November 2012
現代に生きる人々の遺伝子を解析して、その祖先がどんな風に移住したり、混血したりしたのかを調べることができます。
上記の論文では、日本人の遺伝子を解析してみた結果、どうやら、今の日本人(本土人)は、日本にもともと住んでいた原住民である縄文人と、途中から朝鮮半島から移住してきた朝鮮半島人(=弥生人)とが混血してできた人たちが中心だろうと見ています。
一方で、あまり混血しなかった人たちもいます。その人たちは、北と南に分かれて、それぞれアイヌ人と琉球人になった、というわけです。
いったい何が起こったのか?
普通に考えればこういうことです。
第一段階は、日本に縄文人が住み着くところです。
縄文人は、基本的に狩猟採取民族でしたでしょうから、文化的・科学的・経済的には弱いものでした。
第二段階として、そこに朝鮮半島から、より文化的・科学的・経済的に強い、農耕民族の弥生人たちが入ってきます。(より正確には、朝鮮半島から移住してきた人たちが、割とすぐに原住民である縄文人と混血し、「弥生人」と呼ばれるようになった、というところでしょう。)
おそらく、日本が離小島だったこともあって、朝鮮半島からの移住者は圧倒的な武力や経済力で原住民である縄文人を攻め滅ぼしてしまうほどの勢力は持たずに、少しずつ移住し、少しずつ混血し、それなりに仲良く協力的に暮らしていたのでしょう。
ところが、この「弥生人」がどんどん縄文人と混血して、いわゆる「日本人(本土人)」となり主流派になってくると、彼らは原住民である縄文人を北と南に駆逐するようになります。(おそらく、北と南に駆逐しきれず、取りこぼしのような地域もあったと思われ、それがのちに「部落」になっていったのでしょう。)
北に逃れた縄文人たちはオホーツク人たちとさらに混血して、アイヌ人になりました。
南に逃れた縄文人たちは主流派の人たちと混血しながら、琉球人になりました。
…というわけです。
どうりで、縄文のあのコテコテした派手な装飾がアイヌや琉球に見られたり、北海道と沖縄という両端にありながら、どこかアイヌ人と琉球人は顔つきが似ているわけです。
ところで、どのくらいの持続時間で「早漏」と言えるのか?
Prevalence of premature ejaculation in young and middle-aged men in Korea: a multicenter internet-based survey from the Korean Andrological Society
Asian Journal of Andrology (2010) 12: 880–889. doi: 10.1038/aja.2010.9; published online 2 August 2010.
これが意外に知られていない。
だいたい、「早漏」の定義もすごく主観的で、本人にとっては不本意なほど早く、という感じになっています。
じゃあ、より客観的にはどう言えるの? いったい、どれだけ持続時間が短かったら「早漏」と言えるの? と言いたくもなります。
そこで、上記の論文です。お隣、韓国のことなので、アジア人ですから、遺伝子的にかなり近い日本人にもだいたい転用できるでしょう。
まずは、これ。
やってる姿を想像すると馬鹿丸出しですが、性交が始まって、膣内に挿入したところで、ストップウォッチを押します。そしていったところでストップウォッチを押します。その時間です。
驚いたことに、最も多いのは5〜10分です。
そんなに短いのか? と思うでしょうが、ちゃんと客観的に測定すればだいたいこのくらいであることが、他の研究でも示されています。
そして、2分以内が極端に少ないことも見て取れます。
ここです。
この2分以内です。
実際、2分以内だとパートナーの不満足感も急激に増すことがわかっていて、どうやらここがカットオフ値です。
そして、一般的に「早漏は若いうちだけ」と思われているのが大きな誤解であろうことが、この結果。
早漏の罹患率(?)ですが、なんと年齢が上がるごとに増えているじゃないですか。
少なくとも、決して若いうちだけの問題とはいえないわけです。
…なーんて、わりとどうでも良い無駄知識にこだわってみたのでした。
早漏の原因は脳にある
Dysregulation of Emotions and Premature Ejaculation (PE): Alexithymia in 100 Outpatients
J Sex Med 2007;4:1462–1467
何となくネットニュースを見ていたら、こんなのがありました。
『パートナーとの性交渉で不満を言われた男性…クリニックを受診して抗うつ薬が処方されたワケ』
まあ、読売新聞の家庭の医学的な記事で、今回は「早漏 premature ejeculation」の特集のようなのですが、そこに紹介されている患者さんの対処法がいかにもあるあるです。
『「感覚が鈍くなるのでは」と考えて分厚いコンドームを使うなどしましたが、満足のいく結果は得られませんでした。自分で出してから行為に臨んだこともありましたが、「気持ちが高まりませんでした」』
何がどう「あるある」かというと、早漏の原因は感覚が敏感すぎることにあると思っていることです。
実は違って、感覚が鈍すぎるからだろう、という話が、上記の論文です。
アレキシサイミア、つまり自分自身の感情や感覚に気づきにくい傾向、これが早漏の原因というか、背景になっていることを示唆している研究です。
これだけではなく、早漏の人は「おねしょ」の期間が長く、場合によっては成人してからも「おねしょ」がありがちなこともわかっています。
これもまた、(寝ている時だから無意識的な感覚ですが)感覚が鈍い傾向があることを示唆しています。
さらに、注意欠陥多動性障害ADHDの人にも早漏が多いことが知られていて、ここでもまた、注意力の低さ、気づきの配分の悪さが背景にあろうことが考えられます。
実際、早漏の治療として行動療法的な「訓練」をするのであれば、感覚を鈍らせようとするのではなく、逆に感覚にしっかり気づくように、特に「いきそうな感覚」にしっかり気づくようにすることが、とても大切なことが知られているわけです。その感覚に気づきさえすれば、あとはもうちょっとの努力で、コントロールできるようになるものだからです。
人類は楽園に暮らすネズミたちと同じ運命を辿るのか?
Calhoun JB. Population Density and Social Pathology
Scientific American 1962; 139-148.
今からもう40年も前のことになるのか?
高校生の頃に生物学の教科書にちらっと書いてあった、「ネズミを鼠算式に増やしていったら、果たしてどこまで増えるのか? ネズミ社会の行方は?」という奇妙な実験の話を、大人になってから読み直しました。
それが、この論文です。
ネズミたちを、住む場所も、水も、食べ物も十分にある、そのうえ天敵のいない、ネズミたちにとっては楽園と言えるような場所で暮らさせ、増えるにまかせていったら、いったいどうなるか?
「鼠算」という言葉があるくらいですから、どんどん増えそうなものです。
ところが、このCalhoun先生が行った実験では、ネズミはある一定の数に達すると、それ以上は増えていかず、なぜか減り始めたのです。
いったい何が起こっているのか?
どうやら、ネズミの精神に問題が生じるようになったのです。
ネズミにはちゃんと「縄張り」があり、もともとは縄張りを守るのはオスの仕事。その中で子育てをしっかりするのがメスの仕事でした。
ところが、なぜかネズミの数が増えて都会化してくると、ネズミたちのメスは本来的にはオスの仕事である「縄張り」行動に進出してくるようになりました。メスも、オスと同じように、攻撃性を示して自分の縄張りを守るようになったのです。
そうなってくると、メスの攻撃性は子どもにも向かうことになります。
さらに、子どもを見捨ててしまう母親も出てきます。
自分の母親に攻撃され、養育放棄され、虐待されて育った子どもはろくな大人にはならず、ネズミ社会での引きこもりになってしまいます。当然、まともな恋愛行動・求愛行動もできません。
彼らの一部は同性愛とか小児愛とか、普通のネズミならしないような異常な行動をとるようにさえなります。
そんなことはなく、まあまあまともに育ったように見える若いネズミたちも、年寄りネズミによってつくられた出来上がった社会の中に居場所を見つけることができず、引きこもりになっていきます。
そうこうしているうちに、次第に出生率が下がり、生まれても育たなくなり、あっという間に少子高齢化が進んでいきました。
Calhoun先生がこの実験を終える頃には、もはや生殖能力を失った老ネズミしか残っておらず、このネズミの楽園が消滅するのは時間の問題だったと言います。
なんだか、空恐ろしい話です。
日本人は「なんとか検定」が好きだ
日本ビール検定公式テキスト 2022年5月改訂版
一般社団法人日本ビール文化研究会
まったく、こんな本まであるのだから、驚きです。
以前に、海老名にあるビール屋さんに行ってあれこれビールを飲んでいた時のこと。
「あれ? この味は何かの味に似ている? トラピストビールに似ているのか?」
なんてことを店員さんに聞いてみたら、店員さんがこの本を持ってきて、あれこれめくりだして…。
なんと、こんな本があったのか!
と、さっそく注文して取り寄せてみたのでした。
なるほど、最近良く聞くIPAとは、そういうことか。
ピルスナーとは、そういうことか。
スタウトとは、そういうことか。
これまで、お店の店員さんに聞いたり、隣にいる詳しそうなお客さんに聞いたりして、ばらばらに集めた断片的だった知識が、なんとなくつながって整理された気分です。
…なんて、きわめてどうでもいいビールの話を面白く読める一冊でした。
多くの動物たちはオスの方が美しいのに、なぜ人間は女性の方が美しいのか?
T. H. Clutton-Brock and E. Huchard. Social competition and selection in males and females.
Phil. Trans. R. Soc. B 2013 368, 20130074
動物たちの世界では、親投資 parent investmentの大きな男女差の問題から、基本的にはメスがオスを選ぶ立場にあります。
そのうえ、多くの動物たちは、たった一匹のオスが多数のメスを従える「ハーレム」を形成する一夫多妻制です。
だから、オスたちはメスに選ばれることを競争し、その競争に勝ったものがたった一匹の「ハーレム」の主になれ、敗れたものには生殖の機会(次世代に自分の遺伝子を継承する機会)がない…という、まあ厳しい世界です。
オス同士の競争は、本格的な喧嘩 fightであることもありますが、これは勝った方も負けた方もリスクやコストがかかり過ぎます。
このため、本格的な喧嘩を避ける方法として、体の大きさや姿勢によるアピール(体の大きな個体の方が普通は喧嘩に強いからです)、鳴き声によるアピール(体の大きい個体の方が強そうな声で鳴けるからです)、ツノやしっぽの飾り ornament…などなどいろいろやるわけです。
だから、多くの動物たちは、オスの方があれこれ飾りつけが多いし、色も派手だし、綺麗なのです。
ここで思うわけです。じゃあ、なんで人間は逆なの?と。
実は動物の世界にも、メスにあれこれ派手な飾り付けがあって、派手で綺麗なものもいます。
そうした動物たちは、その多くが、一夫多妻制ではなく、一夫一婦制。さらに、メスはちょくちょく浮気 extra-pair couplationをする性質があります。
そう、メスがこうしてちょくちょく浮気をするには、アピールするものがあった方が有利なのです。
ということは…なんて、わざわざ言わなくても、人類の進化の歴史の中で、私たち人間の女性にとって浮気はとても重要な遺伝子継承戦略の一つであったであろうことが、他のいくつもの根拠から示されているので、まあ、よしとしましょう。