人類は楽園に暮らすネズミたちと同じ運命を辿るのか?

Calhoun JB. Population Density and Social Pathology

Scientific American 1962; 139-148.

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今からもう40年も前のことになるのか?

高校生の頃に生物学の教科書にちらっと書いてあった、「ネズミを鼠算式に増やしていったら、果たしてどこまで増えるのか? ネズミ社会の行方は?」という奇妙な実験の話を、大人になってから読み直しました。

それが、この論文です。

 

ネズミたちを、住む場所も、水も、食べ物も十分にある、そのうえ天敵のいない、ネズミたちにとっては楽園と言えるような場所で暮らさせ、増えるにまかせていったら、いったいどうなるか?

 

「鼠算」という言葉があるくらいですから、どんどん増えそうなものです。

 

ところが、このCalhoun先生が行った実験では、ネズミはある一定の数に達すると、それ以上は増えていかず、なぜか減り始めたのです。

 

いったい何が起こっているのか?

どうやら、ネズミの精神に問題が生じるようになったのです。

ネズミにはちゃんと「縄張り」があり、もともとは縄張りを守るのはオスの仕事。その中で子育てをしっかりするのがメスの仕事でした。

ところが、なぜかネズミの数が増えて都会化してくると、ネズミたちのメスは本来的にはオスの仕事である「縄張り」行動に進出してくるようになりました。メスも、オスと同じように、攻撃性を示して自分の縄張りを守るようになったのです。

そうなってくると、メスの攻撃性は子どもにも向かうことになります。

さらに、子どもを見捨ててしまう母親も出てきます。

自分の母親に攻撃され、養育放棄され、虐待されて育った子どもはろくな大人にはならず、ネズミ社会での引きこもりになってしまいます。当然、まともな恋愛行動・求愛行動もできません。

彼らの一部は同性愛とか小児愛とか、普通のネズミならしないような異常な行動をとるようにさえなります。

そんなことはなく、まあまあまともに育ったように見える若いネズミたちも、年寄りネズミによってつくられた出来上がった社会の中に居場所を見つけることができず、引きこもりになっていきます。

そうこうしているうちに、次第に出生率が下がり、生まれても育たなくなり、あっという間に少子高齢化が進んでいきました。

Calhoun先生がこの実験を終える頃には、もはや生殖能力を失った老ネズミしか残っておらず、このネズミの楽園が消滅するのは時間の問題だったと言います。

 

なんだか、空恐ろしい話です。