男の旅

Wells S.  The Journey of Man: A Genetic Odyssey.  

ASIN ‏ : B009MYAOQU

出版社 ‏ : Random House (2012/10/31)

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題名を無理に日本語にしようとすると「男の旅」

…なんか、本宮ひろ志の漫画でしょうか、という感じになってしまいます。

 

実は、人類がアフリカの真ん中あたりで発祥してから、どのように世界中に散らばっていったのかを、男性のY遺伝子の変異を追跡することで、調べてみた結果の本です。

 

これまで、ミトコンドリア遺伝子の変異を追跡することで、ミトコンドリアは女性の卵によってしか次世代に引き継がれないことから、母→娘への女系の人類発祥からの道のりは示されていました。当時としては驚いたことに、全人類はすべて約15万年まえのアフリカの真ん中あたりに生きていたであろう、たった一人の女性を先祖にしている、という結果を示したのです。(これは「アフリカのイヴ」として有名になりました。)

 

では、男性はどうなのか? 

ちょうど良いことに、男性の性を決定しているY遺伝子は、父親→息子にしか引き継がれませんから、この遺伝子の変異を追跡すれば、人類発祥から今に至るまでの、今度は男系の道のりが示せるはずです。

その結果をまとめたのが本書だったわけです。

その驚きの結果は、全人類はすべて約5万年まえのアフリカの真ん中あたりに生きていたであろう、たった一人の男性「アフリカのアダム」の子孫であることだったのです。

 

うん? イブが15万年まえで、アダムが5万年前?

イブはなんと10万年以上もアダムを待っていた?

で、「おせーよ!! いったい何万年待ったと思ってんだよ!」とアダムに言い放った?

 

そんなわけはないわけです。つまり、イブと同じ15万年前に生きていた男性達のうち、5万年前に登場した「アダム」以外の男性達は皆、遺伝子を現代まで残せなかったということです。

 

女性にくらべて、男性ははるかに遺伝子を残しにくい…。

 

その一例として、非常にショッキングな出来事が、本書にも描かれていました。

 

Y遺伝子の変異を解析してわかった大昔の出来事はこうです。

 

アフリカの真ん中あたりで発祥した人類は、ある時期から、その一部がアフリカを出ようとします。

 

第一陣は東アフリカから中東付近を経由して、インド、東南アジア、オセアニア…というように、ずっと海岸沿いを進みました。これを仮に「ナギサ人」と呼びます。

 

そして第二陣は、海沿いではなく、内陸を進みました。これを仮に「ナイリク人」と呼びます。

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悲劇はインドで起こります。

 

この地域には、すでに「ナギサ人」が先に来て暮らしていました。

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ところが、その北側の内陸を進んでいた「ナイリク人」は行く手を山脈に阻まれ、仕方ないので南下してきて、ちょうど「ナギサ人」が住んでいるところにやってきました。

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そのあとで、何が起こったのかは、わかりません。

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ただ、結果として、「ナギサ人」の女性の遺伝子は生き残っているものの、男性の遺伝子は消滅してしまい、「ナイリク人」の男性の遺伝子に置き換わっていました。

女性は生き残り、男性は死に絶えた。

 

一体何が起こったのかは、推測しかできませんが、いくつかの可能性があるでしょう。

 

(1)「ナギサ人」と「ナイリク人」との間で戦争があり、(農耕という)圧倒的な文明力と経済力を持つ「ナイリク人」が「狩猟・採取生活」をしていたであろう文明力の低い「ナギサ人」の男性を皆殺しにした。

…ちょっと考えにくいです。いくら古代人でも、いくら文明力の差がものすごくあっても、さすがに皆殺しをするのは大変すぎます。

 

(2)「ナイリク人」が「ナギサ人」を皆殺しにはしなくても、全員を奴隷にした。

…これもちょっと考えにくいです。一部を連れ去って奴隷にするならあり得るでしょうが、全員を奴隷にするのは無理がありすぎです。

 

(3)「ナイリク人」と「ナギサ人」は同じ地域に住むようになったが、文明力が圧倒的に高く、経済力が圧倒的に高い「ナイリク人」の男性は「ナギサ人」の女性にもモテてしまい、逆に文明力が低く貧乏な「ナギサ人」の男性はさっぱりモテなくなってしまい、結果として、長い時間をかけて絶滅していった。

…これが一番ありうる気がします。なにしろ、古代人の頃から人類の女性はお金持ちの男性が好きですから。

 

いずれにしろ、遺伝子継承の観点からすると、女性は生き残ることが容易でも、男性は生き残ることが難しい、ということです。